スタートアップ環境における、行動指針のデザインプロセス

こんにちは、デザイナーの戸谷です。サービスデザインを担当しています。

事業フェーズにあわせた組織づくりのために、Assured では行動指針を策定しました。今回は、そのデザインプロセスを紹介します。特に、スタートアップで組織開発を担っている方や、組織づくりにデザインを活用する方の参考になれば幸いです。

プロセスの概要

今回の行動指針づくりは主に3つのフェーズで進めました。

  1. メンバーの現状把握
  2. テーマの絞り込み
  3. 言葉への落とし込み

各フェーズで、サービスデザインのプロセスをベースに「発散と収束」を繰り返して、対話と議論を進めていきました。

なぜ行動指針を作ったのか?

プロセスの詳細を紹介する前に、そもそもなぜ行動指針を作ったのか?について説明します。

スタートアップフェーズにおいては、メンバーが向かう方向性の認識を合わせることが重要です。Assuredは現状、プロダクトマーケットフィット(PMF)を目指すフェーズにあります。このフェーズでは特に、全員が同じ方向を見据えて、お客様への価値提供をスピーディに検証しながら実践していく必要があります。こうした背景があり、チームとして大切にしたい価値観を、日頃実践しやすい「行動」という具体的な粒度ですり合わせたいと考えました。

行動指針は、自分たちがどのようにコトやヒトに向き合うかの “具体的な” スタンスの話なので、検証を重ねるうちにゴールが変わっても変化しにくく、拠りどころとするのに最適だと考えました。この指針によって、「行動を積み重ねて、事業として為すべきゴールを共に探索していくこと」を実現できればと思います。

こうした認識合わせのために、「ミッション・ビジョン」を策定することも多いかと思います。それらに先んじて行動指針を策定したのは、検証を重ね続けるなかで、事業の使命や目指すべきゴールは、流動的かつ大きく変化し続けると考えたからです。

また、タイミングについても考えがありました。Assuredは今年の1月に正式ローンチをしたばかり。徐々にメンバーが増え、組織としての風土が醸成されつつある今が、最も濃い組織文化を創れるタイミングだと感じています。

① メンバーの現状把握

ここからは、実際のデザインプロセスを紹介します。まず、「メンバーの現状把握」のフェーズでは、3-4人のチームに分かれ、3つの問いについて対話を行いました。

こうしたワークショップは、しばしばチーミングの機会としても機能します。そのため大前提として、それぞれの個性が引き出され、各自のこだわりを相互に掘り下げられるような場にすることが必要です。そのため、チーム構成はなるべく人数を絞り、それぞれが発言できる機会を取りやすいようにしました。また、普段接点の少ないメンバー同士のチームにすること、各チームに1名ずつ、事前に依頼したファシリテータを配置することで、発言者への興味を持ちやすくなる設計を意識しています。

問いは下記の3つを用意し、1つあたり30分前後話し合いました。

  • Q1. あなたが思う、Assured チームの良さは?実際に入社して感じた良いギャップは?
  • Q2. あなたが事業上の役割を全うするうえで、大切にしている言葉、考え方、行動、価値観は?
  • Q3. あなたは Assured の組織をどうしていきたいですか?

質問の構成は、現状のチームの具体的な良い点 → 個人としての価値観 → 未来のチームのビジョン、というように徐々に抽象度を上げていけるようなステップを意識しました。また、漠然と「チームの良さは?」と聞くのではなく、入社前後のギャップやこれまでとの比較を聞くことで、具体的な経験をベースに答えやすいように心がけました。

十分な距離を確保できるオープンスペースで感染対策を講じて実施しました

チームごとの対話のあと、全体に向けてチームの代表者が発表を行い、質疑を受け付ける時間も設けました。この時間を設けることで、チームごとの時間に話を聞かなければというほどよい緊張感も生まれます。

このフェーズの収穫は、同じ言葉でも認識が違うことがあるなど、言葉に対する微妙な温度感の違いがわかった点でした。例えば「スピード」を大事にしている、と言っても「アウトプットの速さ」「裁量の大きさ」「考えすぎずに行動する」などのニュアンスの違いや、「前職に比べたらスピードが速い / 遅い」という捉え方の違いなど、さまざまなグラデーションがあることに気づくことができ、最終的な伝え方の参考になりました。

② テーマの絞り込み

ワークの結果は KJ 法を用いて、10 程度のグループに整理しました。このグループをさらに、すでにできていることと、現状足りていないこと、に分類しました。

ここからは、上記のグループからどの要素を盛り込むかを決めていくわけですが、どんな意志をもって決めるのか?は極めて重要なプロセスです。

改めて、行動指針としてどんな内容のことを発信していくべきか。今回のケースでは、冒頭で触れた作成目的である「この指針によって、行動を積み重ねて、事業として為すべきゴールを共に探索していくこと」を実現するために、今できていることは一定大切にしつつ、「組織としてありたい姿」に寄せて考えていくことにしました。

ワークの結果をグルーピングしたもの

では、その「組織としてありたい姿」とは一体どんな姿でしょうか。ここからは Assured の事業長である大森とともに想いを言語化していく作業に入りました。

まずは大森の「組織に対する想い」を徹底的に言語化します。「こういう組織にしたい」「こういう行動が足りていないように見える」「こういう行動を大切にしたい」といった発話に対して、こちらから質問を投げかけて深掘りしていきました。質問は大きく分けると、「なぜそう思うか?」「それでどうなるか?」「それはどういうことか?」の3つです。

具体的な聞き方としては、「それはどういう意味か?」「なぜその行動が大切か?」というストレートなものや、「〇〇ということか?」のように仮説をぶつけるもの、「〇〇ではないですよね?」「そう思わない人もいると思うが、なぜ大切だと思うか?」と拡大解釈や逆の意見をぶつけて揺さぶるもの、「その行動によって組織や事業がどう良くなるのか?」とその先のゴールを聞くもの、などさまざまなパターンを使いました。

例えば「スピードを大事にしたい」と発話された場合、こうした質問を通じて、「答えのないコトに向かうには行動の数が大事(だから、スピードが大事)」「まずは不恰好でも価値を届けることが大事(完璧にやりすぎない、という意味でスピードが大事)」など、伝えたいメッセージがよりシャープになっていきました。

③ 言葉への落とし込み

ここからは最終段階。まずは、とりあえずヘタクソでもいいので、伝えたいことをつらつらとコピー化してみる作業を行いました。全員でのワークで出た言葉も盛り込みつつ、170 ほどの案を作成し、言葉のニュアンスをすり合わせていきます。また、この段階で行動指針として浸透しやすい枠組みの検討も行いました。Visional グループでは、「Visional Way」というグループミッションとバリューも定められているため、覚えられても多くて3つに収めよう、ということになりました。

図解も交えつつ、コピー化してニュアンスをすり合わせる

言いたいことが草案としてまとまった段階で、社内のクリエイティブディレクターにも加わってもらい、フィニッシュワークを行いました。

相談の翌日には3つのパターンを提案してくれ、そこからさらに、より日常会話で使いやすく浸透しやすいような構成とワーディングに磨き込んでいきました。3つのキーメッセージの意図と、そのつながりを、口に出したくなるリズミカルなフレーズで表現できたこと。そして全体を、冒頭と締めのメッセージングでまとめ上げられたのは、コピーライティングのチカラが注入されたからこそだと感じました。

行動指針の紹介

最後に、Assured の行動指針をご紹介します。


仲間と「新しい可能性」を創造するために。
一人三役で、お客様の感動にコミットしよう。

1. 未踏へのチャレンジャー
前人未踏のことに挑もう。行動の数だけ道が拓けるから。

2. 学びのティーチャー
積極的に学び、発信しよう。それが組織を刺激するから。

3. 最速のスプリンター
完璧を目指すより、スピードが命。価値を最速で届けよう。

楽しもう、アドベンチャー


できあがった行動指針は、事業長の大森から下記のような想いとともにお披露目されました。

新たな価値を創造し、お客様に届け、世の中の課題を解決していく上では、何よりも「やってみること」。そしてその結果を学びに変え活かしていくような、挑戦と学習のサイクルを高速で回していくことが重要と考えています。そのためにも、一人ひとりが自らの限界を超え、どんどん新しいことに挑戦していくこと、そして学びをチームに持ち帰り、刺激しあえるような組織にしたいと考え、今回の行動指針を作りました。ベンチャー精神を大切に、不確実な状況を楽しんでいきましょう。

行動指針は作ってからがスタート

Assured ではお披露目の後、早速、行動指針を皆で意識するための施策が始まっています。組織フェーズに合わせ、コストを掛けすぎずに楽しんでできることを心がけています。

壁への貼り出し

Assuredは現在、週2日オフィスで出社する体制となっています。そこで、社内に掲示するポスターも制作しました。

Slack emoji の作成

ベタですが盛り上がっています。今後これらは Bot で月次集計し、多くの emoji を集めた事例を共有する社内コンテンツも実施しました。

行動指針トーク

週次のチームの全体会で、自分自身が行動指針を体現した事例を紹介するトークコーナーを持ち回りで実施しています。普段はあまり聞けない各自の価値観を聞くことができて面白いです。

おわりに

発表後、チームにはおおむね受け入れられていますが、組織は変化し続けるもの。ちょっと馴染まない、もっとこういう要素を入れたい、なんてことも予想されます。行動指針の先にある、お客さまへの価値提供を実現するためにも、組織の変化を注意深く見守り、今後もアップデートできればと思います。